大成3丁目の夕日 第8話
社長が倒れてからしばらく、
私の先輩が社長代理として、
業務をするようになりました。
しかし、会社の状況は想像以上に
良くなかったのでしょう。
おそらく社長は倒れて意識が戻ってすぐ、
会社をやめることを決めていたのかも知れません。
仕事は相変わらず減り続け、
それでも会社が無くなるという、
実感はわきませんでした。
社員のみんなは明るく、
次の仕事を探すような人も無く、
毎日少しの仕事をしっかりこなしていました。
現実逃避していたのかも知れませんね。
しかしなんとなく私は
「会社が潰れる前ってこんな感じなのかなぁ?」
なんて思っていました。
そしてその日は突然やってきました。
私はローンで新しい工具を買った翌日のことです。
退院してきた社長が仕事が終わった夕方に、
みんなを集めたのです。
話すことが出来ないので、
社長の奥さんがみんなを呼びに来ました。
そして事務所に入ると、
みんな少しうつむいてました。
社長の奥さんは全員に手紙をくれました。
社長は話せない代わりに、
覚えたてのパソコンで
何とか動かせる片腕で、
今の気持ちと、会社を止めることを
書いたのです。
おそらくなれない上に、
病気の後遺症もあり、
とてつもない時間を
パソコンのキーボードを
打ったのでしょう。
あちこちに誤字、脱字、変換間違いがありました。
でも意味は解りました。
私は今でも私の机の中に
社長の手紙を大切にしまってあります。
このブログを書いていて、
ふと思い出したので、久しぶりに読んでみました。
その手紙を紹介します。
多少文章は私なりに解釈して、
編集してありますが、
社長の気持ちはそのままになってます。
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社員の皆様へ
私は喋れないので文章にします。皆さんトカゲを知っていますよね?
爬虫類のあれです。昔はどこでも見かけた、あれです。危険を感じると、
しっぽを切って逃げる珍しいあれです。
昔はその気になって探せばいくらでも見つかったものですが、
今では見つけるのに大変です。
私が幼少のころは陽だまりの枯れ葉を探すと、
卵が5、6個見つかったものです。
卵を20~30個ためて空の菓子箱に落ち葉と一緒に入れて、
20日程すると5センチほどの可愛いトカゲが生まれ、
それを手足に付けて遊んだものです。
トカゲは危険をキャッチすると、しっぽを切って逃げます。
猫は切れたトカゲのしっぽで遊んでました。
そんな訳で私はトカゲに愛着を感じるのです。
我が会社の問題に入ります。我が社は創立34年になります。
長いようで短い年月でした。楽しいこと、辛いこといっぱいあったけど、
昨今の経済状況では我が社も継続が困難と判断致しました。
私も退院してから、休むことなく悩んでしました。
そこで前文のトカゲの話をしたわけです。
今我が社は猫ににらまれたトカゲです。
兄がこの土地を財務局へ物納しました。
そんな訳で地代が年400万を超えるほどになり、
それでなくても、年に500万円の赤字であります。
これを解消するには4000~5000万円の売り上げアップを
しなくてはなりません。これは無理です。
そこへきて今銀行では貸出しは絶対にしません。
未だ消費税も払えない状況です。
やればやるだけ借金が増えるので、早いとこ撤退して
社員の皆さんに出来るだけのことをしたいと考えたのです。
(今のうちに尻尾を切って逃げるのだ。)
それが一番の得策だと、判断しました。
私が入院中一生懸命頑張ってくれた皆さんには頭が下がります。
誠に申し訳ありません。私の言うことをご理解ください。
なお、予定は2003年2月末。
本年度のボーナスは借り入れできないため、
退職金と一緒にさせてください。
以上 MK(社長の名前)
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私は大成3丁目の夕日を浴びながら、
この手紙を何回も読んだのです。
つづく
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担当 広瀬